森川彩さん「日々の層」
自由が丘にあるギャラリー澄光の扉を開くと夕焼けの色や海の深さのグラデーションを切り取ったような作品が並んでいる。
森川彩さん「日々の層」
個展を訪れて作品を目のあたりにした時の染み込むような感覚が好きだ。はじめは曖昧模糊としているけど刻々とカタチとなって、いつの間にか心に残る。
「月明かり 夜の海」
ゆうべの海は月の光を反射させながらキラキラした細氷が舞うように漂う。
「plants」
日の光が当たり葉の葉脈が透けてみえ新緑に入り込んだミクロの目線は内面を捉える。
「shadow」
影の濃淡に金色の艶がアクセントとなり和モダンな趣に落ち着き。
「existence」
ワイパーの効かない大雨の中、雲の奥に閃光が走り、カーテンが揺れる。ミストのヴェールが花瓶の花を…。
そこに物語のイメージが膨らむ。
日常の風景から少し不思議な気持ちにさせてくれるのはどうしてだろう?疑問が浮かび、どんな風に描いているのですか?と聞いてみたら「外面と内面です」それは日頃の景色やイメージ、映画からのインプットと自分の内側から出てくるものらしい。
穏やかで和やかな雰囲気だけど作品の話をすると探りながら言葉を選び、伝える表情と眼差しは作家としての瞬間。描き始めた時期、自分の画を志した頃、画廊との出会い。他にも中学生の話が森川さんらしくて思わず笑ってしまった。どこか温もりを感じる色彩のすぐそばから知らない世界が映るのは「内面」から様々な情景が滲んでいる感じがした。
スケッチブックを筒描きでなめらかにペンを走しらせ「人の顔をを書くのが好きなんで」さらりと画を描いて見せる手さばきがディズニーのアニメをみているみたいに綺麗だった。背伸びや誇張を感じさせない自然な感じが心地いい。描いていて楽しい瞬間は「伝わり喜んでもらえる事と好きな画がかけた時」きっと過ごす時間や心の機微を丁寧に掬い上げ、顕微鏡を覗くようにフォーカスを合わせ日常の営みや描く喜びが繋がった瞬間に作品となって「日々の層」は出来上がるのかもしれない。なんて、まことしやかに言葉にするのは恐れ多く恥ずかしい。
画廊を後にすると、なんだか自由にゆらりとした気分で風景が洗われて見えてきた。今日みたいな感覚がいつまでも続けばいいのにと思ってしまう。それは少し無粋かな…。心にに詰め込んでおこう。